のづ記

Twitterは@shin_notturiaです。本とかゲームとか怖い話とか。

いい本に出会いました。

『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』

かねてより親交のあった木犀あこ女史が、この度本を出されたので紹介を兼ねた感想を。この記事で、一人でも多くの方が彼女の作品に出会っていただけたら幸甚です。

幽霊が見える新人作家の熊野惣介(ゆの そうすけ)は、ホラー誌『奇奇奇譚』編集者の善知烏悍(うとう かん)と共に最高のホラー小説を作ることを目指す。熊野らは、都市伝説を追う中で同じ音を発して消え去るという霊に立て続けに遭遇する…

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非常に大雑把に要素を挙げると

・作家と編集者が主人公の小説というメタ構造

・霊を認知できるが常人の感性を持ち霊を恐れる熊野と、認知できないが排霊体質で霊を恐れることのない善知烏という相互補完の関係にあるバディ物

の2点でしょう。

メタ構造のバディ物と表現すると、週刊少年ジャンプで連載された『バクマン。』を彷彿させます。ただし今作は怪異を追う二人の世界が中心であり、競合相手との勝負という要素はありませんので、かなり毛色は違うものです。

ちなみに『バクマン。』は大根仁監督による実写版がハチャメチャに面白い傑作なので、漫画・アニメの実写化に抵抗がある人も騙されたと思ってレンタルでも手にとってみてください。のづは原作より完成度が高い稀有な例だとすら思っています。

閑話休題ーー

本作の魅力の背骨は、著者の言語に対する愛情にも似た敬意ではないでしょうか。地の文や台詞などの妙という意味だけでなく、本作の物語の核となる要素の発想の面白さは、敬意や愛情と表現する他ないように思えます。

おそらく、熊野と同等以上に善知鳥という人物は著者からの愛情を注がれたキャラクターなのでしょう。私も好きです。言語に関して語るのは熊野よりも善知鳥が多く、ともすればキャラクター像がブレるのではと思うほどに饒舌になる姿から、著者の熱量が伺えます。

私がこの作品にグッと惹きつけられた瞬間は、熊野が親の死について語るくだりでした。私自身が年明け早々に祖父を亡くした事もあってか、その息遣いが聞こえてきそうな説得力を感じました。創作と現実の境界線を溶かすような感覚(創作世界への没入と言うべきなのか、個人内での消化と言うべきなのか)、小説を読む楽しみの一つですね。

主役を小説家と編集の二人に据えるというのも、おそらく著者の最もリアルな感覚を伝えられる選択でしたでしょう。先述の内容もあり、この本はとにかく「熱い」のです。

長々と語るよりもまずは手に取り、一読していただきたい。軽妙なのに切なさが残る、新進気鋭の快作に、600円で出会えるだなんて、少し申し訳ないくらいです。

熊野と善知鳥の物語が、これから続いていくのか、あるいは全く新たな人物を生み出すのか。

いずれにせよこの愛情深い著者の元に生み出された幸福な人物たちの姿を見られることを、本当に嬉しく思います。