のづ記

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【禍話未発表シリーズ】話ベタなY君

※怖い話を書き起こしたものです。苦手な方は御注意ください。



これは私の体験談である。
大学時代のサークルにYという後輩の男がいる。気さくな奴で、とても接しやすい。その上男前なのだが、一つだけ欠点があった。Yは笑い話などをするとオチの前に自分で笑ってしまったり、話す前に「これメチャクチャ笑ったんですよ」などと言ってしまってハードルを無駄に上げてしまったり、擬音を多用したり…要するに、話ベタなのだ。喜ばしいことではないが、誰しも一度はそういった悪癖を持った人間に出会ったことがあるだろう。
そんなYと、ある年の合宿の晩に、怖い話をする機会があった。怖い話とはいえ、4,5人でネットで拾ってきたようなものや、猫の仕業だったなんてオチの体験談を肴にしてゲラゲラ笑ってる程度のものであった。そんな中で、Yが
「じゃあ自分も実体験を…」
と口を開いた。

Yが小学5年生の頃、下級生の男子児童が交通事故で亡くなった。通っていた学校は小規模で、年が違えど皆顔なじみといったような環境だったので、Yも一緒になって遊んだことがあるような仲の子だったそうだ。
事故があってから数日のうちに臨時の全校集会が開かれた。前述の通り小規模校なので、事故のことを知れ渡っていた。だが、校長先生が沈痛な面持ちで男子児童の死を伝えると、誰しもが兄弟同然の友人の死を改めて突きつけられた気持ちになり、そこかしこですすり泣いていた。そんな中で、Yの隣に並んでいた同級生のSだけは、青ざめた顔で震えている。相当なショックだったのだろうと気を利かせたYが
「大丈夫か」
と声をかけると、Sは首を横に振りながら予想外のことを言った。
「あの子が校庭走ってる」
S曰く、死んだはずの男子児童が、皆が集まった校庭の外周を走っているんだそうだ。Sは霊感だとか「見える」だとか言ったことは口にしない人である。Yははじめ、現実を受け入れられず、生前の元気な姿を見ようと必死になっているのかと思った。素直に悲しむより厄介だ。どうしたものか…と思案していると、Sは続けて言った。
「走っているっていうか、移動してる。足とかの動きと、スピードが違うんだ」
要約すると、Sに見えていた男子児童?は、校庭をスライドするように動いていて、そこに取ってつけたように手足を動かしているという、およそ人のものではない動きをしていたようだ。
Sは集会が終わるまでずっと震えていた。
Yは大体、こんな話をした。
書き起こしていて、私も短いながらになかなか怖い話だと思ったが、Yはとにかくオチがつくような話が下手なものだから、兎にも角にも全く怖くない風に話してしまった。
素材、と言うとさすがに人死に関する話であるから不謹慎かも知れぬが、いくらでも怖くしようがあるだけに、なんとも惜しいと言うほかない。
その時は「相変わらず話の下手な奴だなぁ」というイジりで次の話者へと仕切りが移っていった。


それから10年ほど経った先月、私はYと久しぶりに話す機会があった。いわゆるオンライン飲み会というやつだ。はじめはコロナ禍での過ごし方や、家にこもって太っただなんだという他愛もない話だった。そんな中、ふと思い出話をしている最中に、件の怖い話について話が及んだ。するとYが
「あっ、それなんですけどね先輩。自分も少し前に帰省したとき、Sに会ったんですよ。で、やっぱり自分もその話をしたんです」
と意外な方へ話を広げた。
「へぇ、何か続きとか言ってたの」
「小学校まですぐ近くだったんで少し足を伸ばして、Sに何かまだ見えるのかって聞いたんです。そしたらSがね、なんて言ったと思います?」
相変わらず引っ張るのが下手だなぁと思いましたが、一応
「分かんない。もういないとか、あの時は気が動転してたとか?」
と返しました。
「Sね、校庭指さして『もう走ってはいないよ』って言ってました」
では一体、Sには何が見えていたのか。私は言及するのは辞めておいた。
大事な部分をこともなげに話してしまうYの悪癖が、今回ばかりは功を奏したのだが、私はひどく厭な気持ちで酒を啜った。






※この話は禍話に投稿しましたが、現時点で放送では未発表のものであったので上のようなタイトルとしました。