のづ記

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【禍話リライトシリーズ】首体育館

 これは、男女二人で居酒屋で飲んだ帰った時の話である。

 二人が住む家のすぐ近くには、県内では様々な競技で選抜に選ばれるような私立の強豪校を持つ法人が運営している体育館がある。今のようなご時世でもなければ、毎晩遅くまで練習とかしてるらしいのだが、最近は明かりがついていてもほとんど声も音も聞こえない寂しい有様である。

 体育館は大通りに面しているのだが、体育館の裏側、つまりは住宅街に入っていく小道を通って家に帰ることにした。灯りも少なくて女性だけでは危険な気もする暗めな道だが、こちらの方が信号がなく、早く帰れるので特に男の方が重宝していた。

 二人でその体育館見ながら中高時代の互いの部活の話やらをしながら歩いていたら、彼女のほうが突然顔が引きつって声のトーン落として
「あんまりキョロキョロしないで、そのままこの道さっと抜けよう」

と言いだした。はじめは不審者が近くにいるのかと疑った。結構飲んでいたが、家まではあと1分っていうところだ。二人で全力疾走すべきかとも考えた。しかし彼女のほうは逃げるというより、何かを刺激しないようにやり過ごそうといった風であくまで早歩き程度でその道を抜けようと考えたいたらしい。走ろうとした彼氏の腕を制するように掴んだ手のひらに力が篭る。
 道曲がって途端、彼女から声を殺して

「本当に気づかなかった?」と聞かれたのだが、男のほうは正直分からないままだ。不審者か、ストーカーがいたかと尋ねると引きつった顔のまま男の詰問を否定する。

 玄関についてようやく、彼女は顔面蒼白のままに口を開いた。

「体育館の外階段に、オカッパの女の子の首が置かれていた」

 その首は外階段の踊り場にあったそうなので、念のために、踊り場に向けて横からにゅっと出している悪質なイタズラとかではないかと尋ねてみたが、そんなわけがないと強く否定された。
 曰く、首は垂直に出ていて、体は階段の踊り場を突き破ってぶら下がっていないと無理な向きにあった、つまりは真正面を向いた首であったのだという。

 

 二日ほどたって、カンカン照りの真っ昼間にその道をもう一度二人で通ることにした。その体育館は事故物件として知られるものではなかったし、彼女が見た生首というのも、街灯や防犯カメラの光の関係でそう見えただけだと安心したかった。しかし、やはり昼間であれ、そういう道を確かめようという意図を以って通るのはやめるべきなのだと後悔した。

 生首に見えそうなライトはおろか、そもそもその体育館に外階段などなかった。


 後日、このことを知人に話したところ、恐らくそれは生首だったのではなかったのだろうと言った。そのとき、体もついていた女が浮いていたのだろうが、首から下は見えてはならない状態だったので、脳が勝手に「外階段があったから首から上だけが見えていて不自然ではない」と保管したゆえであろうという解釈をくれた。

 そのときあったものが実際にどのようなものだったか、彼女が見たものはどのような姿形をしていたのかは知るすべもないし、確かめようとは思わない。いずれにしても、それ以来、暗いときはそこを通るのはやめるようにした。

 

 

 


この話は、怖い話をするツイキャス「ザ・禍話第二十二夜」での話を文章化したものです。文章化するにあたり、一部内容・表現を再編集しています。

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/634926948