のづ記

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【本の話】『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』は木犀あこの持ち味を活かしまくった傑作だ!

皆さんこんにちは、のづです。
秋頃より電車通勤となり、行き帰りの車内で毎日2時間ほど読書時間が取れるようになりました。
ものは言いようというか、使い方次第ですね。一般に通勤時間の長さは忌避されますが、毎日決まった長さの読書時間が確保できるのは、個人的に嬉しい限りです。
さて、そんなわけで今日は本の話。以前より新刊が出るたびに紹介してきました、のづが敬愛してやまぬ木犀あこ先生の新作
『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』を一人でも多くの人に読んでほしく、記事にしました。

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書影。木犀作品では過去最高にポップな絵柄。

歴史ある老舗ホテル・ウィンチェスター。ここには444人の亡霊が棲みついている。コンシェルジュとして働く勤続十年目の友能は、ありえないトラブルに振り回されながら今日も最高のおもてなしのために奔走する!血が降る部屋、怪奇現象が頻発する呪われたフロア、五十三年前の火災事故ーーの謎。<死者の祭り>ハロウィーンに現れる怪物とホテルの関係に隠された切ない秘密とは!?”(本書あらすじより)



ジャンルとしては「ホラーミステリー」なのですが、このジャンルについて以前より思っていたことがあります。
ホラーミステリーというのは決して珍しくないジャンルかと思いますが、果たしてこの組み合わせは本当に相性がいいのでしょうか?

ホラーはその恐怖の原因が妖怪や幽霊といった怪異であれ、猟奇殺人鬼やストーカーといった危険性のある人間であれ、「自分には理解できない領域・要素」こそが恐怖になる(危険そのものへの恐怖だとサスペンスと言ったほうが一般的な印象を受けます)ので、コレを解決する(霊を調伏する)と、それでのお話全体がチープに思えてしまうことがあります。また、恐怖感を強くしようとし過ぎると、荒唐無稽なものにもなり兼ねません。無論それはそれでジャンプ漫画的な面白さがあるのですが、やはりどうしても恐怖は薄れてしまいます…


さて、今回の『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』ではそのバランス取りの難しさを如何に解決しているかというと、これは詳述するとネタバレになってしまうのですが大別して2点「解決しない」「恐怖の対象を変える」という手法です。
恐怖の原因と適切な距離を取る、根本的な解決や成敗をしないことで恐怖を安易なものにしない、それまで主人公らが体験してきたもの(読者が読んできたもの)をチープにさせない丁寧さが目を引きます。ゾンビ映画などで、解決させようとすると終盤になって途端に展開が駆け足になることがありますが、それも防げているわけですね。警察や探偵(探偵ならかろうじて平気かな?)であれば解決しなくてはならない宿命にありますが、今回はホテルマンという仮初の宿、一所に留まり続け、通過するように去っていく客を見送る側を主人公としている為に、解決しないことへの不自然さもありません。設定の勝利というやつです。
2つの目の「恐怖の対象を変える」ですが、コレは木犀先生の得意とするところです。無理なく破綻せず早ければ早いほどスマートになる伏線を張り、展開にツイストをかける…。思えば木犀作品は『奇奇奇譚編集部』にせよ『美食亭グストー』にせよ、常に「真実を明らかにする(≠解決する)」事が展開の骨子でした。しかも今作はここに恐怖の対象を移すという要素まで加わっていくわけですが(真犯人が明らかになると同時に、さらにもう一つゾッとする要素を入れているわけですね)これを大変スマートにこなしていて、また一つプロット力(そんな言葉あるのか葉知らない)が1段階上がったと嬉しくなってしまいます。

今回はジャック・リッチーを意識した作りだと公言なさっていましたが、確かに話のツイストのかけ方などは、納得です。ですが私はそれ以上に上に挙げた2つの要素から、女史の中で最近ブームであるような『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフシリーズ『岸辺露伴は動かない』を想起しました。
あのシリーズも基本的に「おっかないものは法則のようなもので、近づかないことしか防衛し得ない」という距離を取ることで難を逃れる締めくくりが多いですもんね。
「っぽい」が褒め言葉になるのかは分かりませんが、優れた諸作品への愛情とリスペストが感じられる(それは本に限らず様々なカルチャーや言語そのものであったりも)のも、木犀作品の大きな魅力です。



またもベストを更新してきたなと思わせる持ち味を活かした一作。ポップにライトに紳士的におっかない。ハロウィンは終わったけれど、そんな可愛らしさと恐ろしさが同居する木犀ワールドに、触れてみませんか?

ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊 (講談社タイガ)

ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊 (講談社タイガ)