のづ記

Twitterは@shin_notturiaです。本とかゲームとか怖い話とか。

【禍話リライトシリーズ】子探し爺

※怖い話(不思議な話?)を文章化したものです。苦手な方はご注意ください。



 これは、自分が中学1,2年の頃だったと思います。確か季節は夏か秋口ではないでしょうか。
 その日の昼過ぎくらい、とにかく明るい時間に、自分は自宅で留守番を任されました。理由も覚えていません。買い物に行くだとか、本当にそういった日常の当たり前の流れのことです。残された自分はと言うと、するべきこともないので、二階の自分の部屋で漫画を読んだりしてゴロゴロしていたんですね。
 一時間ほど経った頃でしょうか。外からなにやら声がします。
「○○ちゃんどこー待ってー」
 老人の声です。名前は失念してしまいましたが、たしか女性の名前であったと思います。誰かを探しているような、あるいは追いかけているような内容でした。とはいえ、老人の声は随分と緊張感に欠けた雰囲気でありましたし、実家がある町は治安が良い地域です。だから自分は、孫が先に走って行ってしまったとか、そういった傍から見ればむしろ微笑ましい程度に思って、気にもとめませんでした。

 少ししてから、その声がハッキリと大きくなりました。鮮明になったというか、レイヤーが取れたような、音のクリアさが明らかに一つ上がったわけです。
 さすがに、老人がこんな声張れるものかなぁと思って自室から出て、外の様子を見ようとしました。
 その老人、自分の家の玄関にいるんですよ。そりゃあ音がクリアになるわけです。
 もちろん玄関の鍵はかけていたはずですし、万が一かけ忘れていたとしても、見知らぬ人間がドアを開けて半分以上身を入れて覗き込むように
「○○ちゃん〜どこ〜?」
 なんて言ってる光景なんて、その存在の正体関係なしに怖いじゃないですか。
 ただ幸いなことに、その老人は細身で足腰も弱そうで、玄関に半分以上身を入れているのにドアを放さないのは、覗き込むというよりドアを手すりにしていないと苦しいというのが理由なのかもしれません。要するに見るからに弱い印象を受けたわけです。当時自分は柔道部だったこともあり、フィジカルでは多少自信がありました。なので、最悪の場合、老人が暴れ出したりしても負けることはなかろうと思うと少しだけ冷静になれました。とは言え刺激したくありません。簡潔に、事実だけ伝えようと二階の階段の上から、
「あの…ここ○○ちゃんいません……」
 自分が2階から玄関に向かって言いました。その老人は「そっかー…」とか何か言って、ふっとドアを閉めて出ていってくれました。
腕っぷしで勝てるだなんて言いましたけど、どっと緊張が解けました。ドアを開けたら知らない人が玄関にいるわけですから、めちゃくちゃ怖かったですよ。

 で、ここまでは「とはいえ、認知症か何かを患った徘徊老人だろう」とも言えるのですが、腑に落ちないのはその後なんです。
 老人が出てったあと、ピタッと探す声がしなくなったんですね。○○ちゃんのことは見つけてないわけじゃないですか。変だな…と思って恐る恐る(万が一に備えて棒状の物持って)玄関まで行って、外を見ました。
 実家は住宅街の中にあり、家の前の道は、左右に2,30mくらいある一本道なのですが、どこにも老人がいないんですよ。足腰が震え気味の老人の足では絶対に曲がれる時間なんてなかったんです。忽然と、本当に自分の家から出ていった途端、消えてしまったようにいなくなったんですね。
 母が民選委員で老人ホームの手伝い、独居老人宅訪問や弁当配達などもしていましたから、帰宅後に聞いてみました。しかし、母に老人の背格好やらを伝えても、それと思しき人は知らない、と。

 それから何か良からぬことが起こったり、因果応報だと感じるような出来事とは遭遇していないのですが、だからこそ、あれは一体何だったんだろうと、消化しきれずにいるのです。



この話は、怖い話をするツイキャス「THE禍話 第7夜」に投稿した、自身の体験談を文章化したものです。
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/565369093

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実際の現場。画像中央のドアを開けて老人が覗き込んでいた。